MOTUL:
モチュールでなければいけないというか、モチュールが良かった点というのは具体的にはどういう点なんですか。
柴崎:
まず、金属表面に対してのことから言いますと、化学合成油というのはそもそもが不純物が鉱物油に比べて少ないために粒子が安定してるんです。それによって「金属表面の油膜に対する保護」は化学合成油が全体的に鉱物油より優れてるのは確かなんですが、ことハーレーの場合、各部のクリアランスが非常に大きいために気密性とか対オイル漏れ、オイルシールやガスケット類に対する攻撃性が問題となります。中でもモチュールは特に優れていたということですよね。もちろん、油膜に関しても、徐々に良さが体感できてきたんですけど、最初の頃
っていうのは、それほどパワーも今ほど上がってないし、目指しているレース自体のレベルも低かったですから、体感できることが他のオイルに比べて「こんなにいいんだ」というよりは、「まあ
、いいんじゃないかな」ぐらいしかわからなかったわけです。それが、上を目指すにつれて、モチュールのあ
りがたみというのが段々わかってきたという感じですね。
だから、素人さんのレベルではわかりづらい部分があ ったのかもしれないです。誰もはっきりとした形で「こんななんですよ」って見せてくれる人がいなかったじゃないですか。例えばヨシムラさんがモチュールを使ってたとか、そのとき他のオイルじゃだめだったんだけど、モチュール使うことによって故障を最小限に減らせたとか、そういう話は聞いていましたけど、じゃ具体的にどこがどうだったんだというのは聞けなかったわけですよね。すべて僕らの場合はいい悪いが全部自分たちの体験から来てることなんで、かなり信憑性があ
るものしか僕らは信用しませんから。良いという前評判は信用しませんからね。
MOTUL:
ハーレーという車種自体が、テイストがアメリカですから、モチュールというフランスのオイルと言うと、お客様はピンと来ない部分はあ
りませんか?
柴崎:
それはもっと冷静に考えれば、じゃあ アメリカ製のオートバイだからといって、オイルもエンジンも車体も塗装もすべてアメリカは優れているのかということになると、そんなに優れた技術が偏ることはあ
り得ないわけですよ。例えば鋳物だったらスウェーデンが一番いいし、宇宙開発だったらアメリカが優れてて、小技は日本が得意とか、そういういろんな文化があ
って、それ1つで見てみれば全部地球製じゃないですか、Made
in 地球ですよ。その中の優れたものが、優れているもの同士でどことどこが優れているか、どことどこが相性が良くてどことどこが相性が悪いか、これはお客さんがイメージで決めることではなくて、我々が実験に基づいて決めることだと思うんですよ。
ですから、モチュールのオイルはゆっくり走るハーレーに適すか適さないかというのは、イメージが決めるものじゃないんですよ。走らせてみて、初めていいか悪いかですよ。それを今、特に日本という国がそうなのかもしれないけど、これとこれを勝手にくっつけたがるんですよね、ファッションのように。イタリア製のオートバイだったらイタリアのオイルじゃなきゃ格好悪いよとか、アメリカ製のものだったらアメリカのオイルじゃなきゃ格好悪いよって。アメリカの国っていうのはそれほどエンジンに対して過激な国ではないんですよ。常にだらだら走って急ブレーキもかけないし、タイヤ
1つとってみてもそうですけども、まず減らないタイヤがいいタイヤですよね。だからミシュランが一番いいタイヤなんです。
そういう国で生まれたオートバイに対して、じゃ、エンジンオイルも安くてしょっちゅう交換すればいいという考え方なのか、それとも長く使っていく、それと日本的に非常にゴー・ストップが多い国で高価なオートバイをいかにいたわれるか、それに対してのコストパフォーマンスですよね。そういうものは何が優れているのか、これをお客さんが判断することでもないし、メーカーがなかなか判断できづらいところでもあ
るし、それを我々がお客さん側に近いところで、なおかつ研究できる立場にあ
って、その中で選んだのは「モチュールが今一番ハーレーには優れたオイルじゃないか」と。だから、フランス製だろうがアメリカ製だろうが中国製だろうが、僕らには関係ないことなんですよ。缶から抜いてしまえばただの液体ですから。
MOTUL:柴崎さんの得意としている分野、目指している分野というのはどういうところですか。?
柴崎:
ハーレーに関してというか、エンジン全般に関してのテクノロジーですかね。エンジンというものはどういうものであ
るか、それの 1つの裏付けとしてのチューニングですよね。レースにおいてのね。それからフィードバックされた物でお客さんに接していく。仕事としてはレースからフィードバックされたエッセンスですよね。耐久力、あ
とはハーレーのエンジンにとっては瞬発力というのも魅力の
1つなんですけど、その瞬発力のツキの良さ。アクセルのツキの良さ。
MOTUL:それはオイルによっても変わるんですか。
柴崎:
変わりますね。これは特に理解していただきたいんですけど、僕はハーレーのカスタムビルダーであ
りながらエンジニアであり、チューナーでもあ ります。そのチューナーという仕事って、簡単に言ってしまえば、フリクションとの戦いなんですよ。この世の中にフリクションというのがゼロであ
ったならば、ガソリンと空気を燃やした時に何カロリー出るかというのでもう出力も計算できちゃいますし、他に戦うものはないんですよ。
世の中にフリクションがゼロであ ったら、2気筒も 4気筒もロングストロークもショートストロークも4バルブも2バルブもロータリーエンジンも2ストロークも関係ないんですよ。もう、ガソリンと空気を燃やしたら何カロリー。カロリーを動力エネルギーに変えたら何馬力と。これはもう方程式でできちゃうんですよ。我々チューナーはその方程式の理想の数字に近づけようとしているんです。
じゃ、何と戦っているか。空気抵抗と機械ロスとか攪拌抵抗とか流体抵抗、あ
とは燃焼に対する熱交換率の悪さ、そういうものと戦ってるわけです。これら目に見えないものと戦ってるわけです。その中の機械ロスの部分に対して、オイルというのはいとも簡単に軽減させてくれるわけですよ。我々がいくらパワーアップしたところで、ものすごいフリクションがあ
ったとしたらば、それはパワーにつながらないわけです。
MOTUL:
例えば、 1馬力でも 2馬力でも欲しいレースの世界では、フリクションを軽減させることがまず一番だと。
柴崎:何馬力か上げるということイコール、フリクションを減らしてることなんですよ。パワーが上がるということは、吸気がスムーズに行われるからたくさん充填できるわけですよね、シリンダーの中に。たくさん充填できるから圧縮比を稼げる。圧縮比を稼ぐと爆発の燃焼をスムーズにする。
すべてそれは抵抗に対して戦ってることなんです。燃焼抵抗、圧縮抵抗、吸入抵抗、あ
とはガソリンが悪ければ燃焼速度に対して悪影響をおよぼしますから、燃焼速度を上げるためにいいガソリンを使う。そこでデトネーションが起きるとパワーロスが起きるから、デトネーションを起こさないような燃焼効率を考え、完全燃焼させる。全部、これ抵抗に対する戦いなんですよね。全部フリクションという言葉に置き換えられるんですよ。スタートに対してのスパークの抵抗、すべていろんな排気抵抗もそうですね。バルブという重さに対してのサージングという慣性抵抗、全部フリクションなんです。抵抗なんですよ。
MOTUL:
モチュールの、何をお使いですか。
柴崎:
今、レースのときには300Vコンペです。つまり15W-50です。8耐のときにはルマンを使いました。15W-60です。
MOTUL:
お客様には300Vの15W-50をメインで販売していただいてるわけですね。
柴崎:
そうです。
MOTUL:
フリクションですとか、走ってみたりとか、エンジンを実際に開けてみたりとか、その点での結果はどうでしょうか。
柴崎:
まず、他のオートバイよりかもはるかにフリクションの多いエンジンなわけですよね、ハーレーのエンジンは。ストロークがビッグツインの場合ノーマルで
108mmありますね。上支点から下支点まで108mmあ
る、こんなエンジンは市販の中では、今現在メジャーなメーカーの中ではないわけですよ。1340ccでたったの
2気筒しかない。ピストンの大きさと 1シリンダー当たりにおけるボリュームってものすごい大きいわけですよね。それが、国産車のショートストロークと同じような路面を同じように走る。フライホイールも非常に重いものを使ってますし、プライマリーはチェーンを使ってますし、いろんなところにいろんなロスがあ
るわけですよ。
でも、そのロスから生み出されてる魅力のエンジンではあ
るわけですよね。そういう、非常に類を見ないぐらいの抵抗の多いシステムの中でハーレーというのは生き抜いてきたシーラカンスのような機構なわけですよね。そういうものにこういういいオイルというのは、最初僕も抵抗があ
ったんですよ。ところが、そういうものだからこそ、本当はいいオイルを求めてたんですよね。
MOTUL:半信半疑だったという部分が変わった理由は。
柴崎:
先入観から来るものと実際が違うということが、いろんなチューニングの世界でいいとされてたものが意外に見落としだったりとか、いいとされてたものが時代の変化とともに見直しがされますよね。それと同じように、僕らが今までいいとされてたものがことごとく裏
切られてきた部分が多かったんですよ。そうなると、オイルに関しても、鉱物油がいいと言っていたのが、自分が化学合成油をよく知らないから鉱物油がいいと。
僕自身が化学合成油、例えばイギリスの某オイル入れた場合、非常にオイルがしみ出た経験があ
ったんですよね。それですべて化学合成油が悪いと思ってた。化学合成油が得意とする浸透性みたいなものが、ハーレーのガスケットだとかシール、クリアランスの大きさに対して非常に悪影響が大きいと。金属表面に対してはいい影響があ
っても、それ以外のところでは悪影響も及ぼすという一長一短があ
ったわけですよ。もちろんモチュールのクロノとかパワーレーシング、この辺のオイルは必ずしもハーレーに適してるとは言いませんけども、コンペティションとかルマンという粘度を持たせたオイルの場合、その部分の悪影響の部分がもう限りなく少なくて、いい面の方が多い。
MOTUL:
うちのは100%化学合成油ですが、15W-50もしくは15W-60はその手のオイル漏れはなかったわけですか?
柴崎:
ないです。全くないですね。今うちで売ってる鉱物油と、デメリットの部分に関しては全く同レベル。メリットの部分に関しては、もうこれは歴然と、はっきりとしてます。
MOTUL:一般のお客様がサンダンスさんでオイル交換をされて、リッター当たり3000円以上するオイルを柴崎さんから勧められて、反応はどうですか。
柴崎:
僕らは本当の意味でお客さんのコストパフォーマンス、一生のコスト。お客さんがオートバイライフというものを何年、何十年乗られるかわかりませんけど、そのときに結果的に安いというものを考えるわけですよ。例えばハーレーを欲しいんだけども、今買えないから国産車を3台くらい乗り継いでハーレーを買おうとする。そこの
3台くらい乗り継いで、売ったときの査定がゼロに近い。また買いましたというのを2台、
3台やってるうちに買えちゃうんです、ハーレーをね。結果的に欲しいものに早く到達した方が一番これが安いわけですよ。それが一番の正攻法なわけですよ。
同じことで、これも先日来られたモチュール本社のボネさんにも言ったんですけど、1回のオイル交換に対して我々の扱ってるお客さんは大体平均
3リットルなんですよ。1000円のオイルと3000円のオイルだと
1リッター当たり2000円違うわけですよね。 3リッターだと6000円違いますよね。工賃は全く一緒ですし、オイルフィルターなんかも同じですから、単純に6000円違うわけですよ。
1回のオイル交換で6000円違う、これ、一見すごくでかく見えるんですが、お客さんのオートバイというのは一生の間に何万キロ走って、何万キロのときにオーバーホールしてというふうに考えていくと、一生のうちに、例えば10万キロ乗るお客さんがいたとしたら、わずか20回に満たないんですよね、オイル交換は。ちゃんと5000キロごとにきちっとやる人ってそれほどいないんで。
5000キロぐらいのときやるときもあ るし、乗らなければ1000キロぐらいでオイル交換することもあ
る。連続で乗ったときに8000キロぐらい交換しなかった人もいる。平均20回として、20回×6000円。そうすると12万円。一生で12万円しか違わないんですよ。12万円で何が買えるか?。ちょっとしたパーツを買ったら、ハーレーの場合は12万円ぐらいすぐかかっちゃいます。しかも、10年で10万キロはなかなか走れないですから、15年、20年かかるわけですよ。20年後の12万円を考えたら、これ、いくらの価値かといったら、もう何万円ですよね。一桁の低いレベル、
4万、 5万の価値ぐらいしかないんじゃないかと思うんですよ。それよりハイオクとレギュラーの値段の差の方がきっと高いんですよ。
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